2023/08/20
▲循環器内科と逆流性食道炎▲
当院の専門は消化器内科ではなく循環器内科ですが、循環器内科と逆流性食道炎には色々つながりがあります。例えば逆流性食道炎による夜間や早朝におこる強い胸の痛みに患者さんは狭心症と間違えて心配して当院を受診されます。
非心臓性胸痛といいます。救急車を呼ばれる方も稀にですがおられます。それに、当院に定期的に通われる慢性疾患や高齢の患者さんは逆流性食道炎のリスクが高いのです。
逆流性食道炎の成人の有訴者数は約20%と、患者さんの数もとても多い疾患です。そうでありながら、専門医に紹介が必要な重症者は日本では少なく、軽症の患者さんが8~9割を占めます。そのような理由で当院でも逆流性食道炎の患者さんはとても多くなっています。
▲このお便りの主な用語・略語▲
※ 胃食道逆流症(GERD ガード)
※ 非びらん性胃食道逆流症(NERD ナード)
※ プロトンポンプ阻害薬 (PPI)
→強い酸分泌抑制作用を持つが、
内服後効果出現までに数日を要する。
※ カリウムイオン競合型アシッドブロッカープロトンポンプ阻害薬 (P-CAB)
→さらに強い酸分泌抑制作用と
約3時間で効果が出現する。
※ 改定ロサンゼルス分類(胃酸の影響を受け
やすい胃に近い食道の状態を
内視鏡で観察して診断・分類したもの)
Grade N (NERD) 変化を認めない
Grade M 色調の変化を認める
Grade A 長さが5㎜以下の粘膜障害
Grade B 5㎜を超える粘膜障害が
1か所以上
Grade C 2条以上の粘膜ひだにまたがる
粘膜障害
Grade D 全周の75%以上に広がる
粘膜障害
▲タイプ別逆流性食道炎の特徴▲
★Grade C D の重症型(全体の約1割)★
→ 高齢者に多い
原因としては、
骨粗しょう症や畑仕事で長時間
前かがみの姿勢になる
食道裂孔ヘルニアを合併している
加齢により下部食道括約筋の力が衰える
高血圧の薬(カルシウム拮抗剤)により
下部食道括約筋の力が衰える など。
治療としては、
リスク要素の除去や日常生活の改善は
もちろんですが、それだけでは
加齢による問題は解決しずらく、
薬をやめてしまうと再発する事も多い為、
胃酸の分泌を抑える薬(PPI)の維持療法
が必要となります。
医師と症状から薬の種類や量を調節し、
副作用のチェックを定期的に行い
ながら、内服を継続する事が大切です。
★Grade M A B の軽症型★
→ メタボな中年の人に多い
原因としては、
肥満による腹圧の上昇
高脂肪食によりコレシストキニンという
ホルモンが作用し下部食道括約筋が緩む
アルコールを飲み食べてすぐ
寝る習慣がある
喫煙も食道の運動機能を低下させ
逆流しやすくなる
治療としては、
生活習慣病リスクを改善させる事が大切
欧米に多いこのタイプの人は、
重症型の人と違い肥満を解消したり、
生活改善をする事で内服を減らしたり
中止する事も可能です。
そうする事で逆流症状だけでなく
健康寿命を延ばす事ができ、
長期内服による副作用のリスクも
回避する事ができます。
★Grade N (NERD)★
→ 有症状者の60~70%を占める
やせ型の若い女性に多い
原因としては、
胃酸以外の液体や空気の逆流
胃酸逆流に対する食道の知覚過敏
胃酸逆流が関与しない食道の運動機能異常
治療としては、
やはりPPIを使用しますが、
必ずしも酸の逆流を伴わない為
効果は50%程度と言われています。
NERD患者は、GARDの患者よりも、
胃酸の逆流の程度は軽いにも関わらず
同じか、それ以上の胸やけ症状を
自覚します。
PPIで効果が見られない場合には
消化管運動改善薬や漢方薬を併用します。
▲逆流性食道炎の治療の進歩と課題▲
明らかに胃内視鏡的に粘膜が障害されているGERDや消化性潰瘍に対するPPIやP-CABの治療効果は高く症状の改善が見られます。
ひと昔前には、症状が強くあるにも関わらず内視鏡で異常はないと言われたNERDに対しても保険適応が認められ、PPIでの治療も可能になっています。
その一方で薬を中止する事による再発が問題となり、維持療法により内服を継続する患者さんが多くなっています。
PPIは20年以上臨床で使用されていて長期内服の安全性が高い事は確認されているとはいえ、
胃酸というのは人間の体において重要な役割を担うためにやはり胃酸分泌を抑える事の影響はないわけではありません。
★細菌の増殖を抑える機能が低下する事による
→ 小腸以下への細菌の侵入が
容易になる事による腸炎
胃内の細菌が増加して微小誤嚥する事
による誤嚥性肺炎
★胃酸により吸収が助けられる栄養素の
吸収障害がおこる事による
→ マグネシウム ➡ 低マグネシウム血症
鉄、ビタミンB12 ➡ 貧血
カルシウム ➡ 骨粗しょう症
このような事が起こりえるという事は特に高齢の患者さんの場合は注意する必要があります。
ステロイドもそうですが、よく効く薬は副作用や辞めどきが難しいですね。
胃腸の動きは自律神経とも深い関わりがあり、季節やストレスの影響もうけやすいです。
生活を整えながら辛い症状がある時は薬にも助けてもらわないといけません。
長く付き合う病気だからこそ、どの薬をどのくらいの量、どのくらいの期間内服するか、休薬は可能かなどと共に副作用のチェックが大切です。
保険適応はされていませんが、医師の指導をうけながら自分で症状出現時にP-CABの内服を行う『オンデマンド療法』という服用方法も考えられています。
自己判断で辛い症状を我慢したり、逆に漫然と薬を飲み続けたりせずに、逆流性食道炎の症状でお悩みの方は信頼できる医師と自分の身体との相談を大切にしてください。
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